心理学を学んでいる人にとってはわりと有名な話ですが、フロイトとユングの往復書簡というものがあります。1906年のフロイトの第1信から始まり、1923年のユングの第359信で途絶えているようです。かなりの交流があったのですね。
そのなかで、どうもお互いに相手の言っていることがよくわからない、話がかみ合わないところが出てくるんです。その理由としては、フロイトは気質的に神経症に親近感を持っており、一方ユングは分裂病(今でいう統合失調症)に親近感を持っていたからだと言われています。
ユングが分裂病から得た知見を手紙に書くと、フロイトはヒステリーの人にその知見を当てはめて考えるので、なかなかピンと来ないわけです。その逆に、フロイトからユングに語った内容でも同じようなことが起きて、理解に苦しむわけです。
このような会話のすれ違いは、お互いのものの見方や考え方の根本的な違いから生じています。気質や立場が大きく異なれば、たとえ寛容に相手の言いたいことを尊重しようとしても、相互理解が難しくなることがあります。この事実は、カウンセラーにとって大切と言われる「共感」を考えるうえでもきわめて重要です。
似たような気質や立場の人どうしが会話する場合は、多少説明不足でも話が通じることが多くなります。そうでない場面では、しっかりと言葉を尽くさないと自分の真意が伝わりません(あるいは十分に説明しても限界がある場合もあるでしょう)。多様性がぶつかるところに、言語というものは発達するのかもしれません。
オナガガモ(谷津干潟)
Comments