ここ数年、「自分は発達障害ではないか」と考えてカウンセリングを受けに来る人は増えてきました。マスメディアの発達障害情報を見聞きしたのがきっかけという人もいますし、配偶者から発達障害かもしれないと言われて相談に来る人もいます。
典型的な中等度以上の発達障害を持つ人であれば、すでに幼少期から診断を受けているケースが多いと思われます。しかしいわゆる「発達障害グレーゾーン」と言われる境界域のレベルになると、大人になってからやっと自覚される場合もあります。いくつか例を挙げて説明します。
たとえば、本人の学校の成績が良かった場合は、先生からもポジティブな評価を受けやすく、クラスの皆からも一目置かれて、特にいじめなどの問題もなく過ごしてこられたケースもあります。しかし就職後に実社会でより臨機応変な対応が必要になってくると、刻々と変化する状況に即応することが苦手な自分の特性に気づくことがあります。実社会で求められる対応力とは学校のテストのように必ずしも正解がはっきりしているとは限りません。
また職場の配置転換により発覚する場合もあります。自分のペースで作業に取り組めるような部署から、より複雑微妙な協力関係やコミュニケーションが必要となる部署に異動になり役割が変化した時に、状況理解と状況説明が苦手な特性が明らかになってくることがあります。発達障害のある人は相手の意図を読むことが苦手だったり、字義通りに解釈してしまったりすることが多いため、いろんな不都合が起こる可能性があります。
それまで自分をサポートしてくれた人がいなくなった場合も注意が必要です。たとえば本人がうまく表現できないことを代弁してくれた人や、こだわりを理解してくれた人が異動や退職によりいなくなってしまうと、本人一人ではうまく対処できなくなってしまうこともあります。発達障害のある人は自分の特性を理解してくれる人を必要としています。
発達障害と一口に言っても千差万別なので、いろんなケースがあると思います。他にもさまざまなことが契機となって、隠れていた発達障害による困難が現れてくることがあるでしょう。発達障害を持つ人にとってはとてもつらい局面だと思います。ある環境では発達障害の特性が顕在化しにくく、別の環境では不都合を招きやすいということかもしれません。発達障害を持つ人々が生きやすい環境とは何なのか、我々専門家も日々考え続けることが必要ですね。
(キジバト)
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