前回のコラムで「生きた言葉を使える精神分析的精神療法」と書きました。
言葉が生きている、心が生きているという時、生きているとは変化する、動きがある、ダイナミックであるということです。
心がどんなふうに動くのか、その原理やメカニズムのことを心理力動といいます。
生きている心をどう捉えるか、心理力動の観点からお話しさせてください。
精神分析学では、心の主体を自我と呼びます。自分を自分で感じ、見て、考えて、己の行動を決めたり決めなかったりするマネージャーです。
自我が経営しているのは自分全体で、自己と呼びます。
心の動きは、わたしたちが気づける領域=意識の領域だけでなく、気づけない領域=無意識の領域にもわたっているので、
マネージャーは、意識からも無意識からも影響を受けながら、自己を運営しようとしているのです。
このマネージャーにはふたつの側面があります。
世界を感じ、考え、行動する自分=体験自我。
そういう自分を観察し、自分の体験や行動と客観的な事実や現実を比較し、分析し、洞察する自分=観察自我。
そして、身体能力がひとそれぞれあり、運動神経がよい/よくないがあるように、心も強い/弱いがあるとされます。
自己のまとまりをキープし、自己を経営していく能力のベースにある、基本的な弱さ強さを指して、自我の力といいます。
自我の力は鍛えられる=育てられる性質を持っていますが、生まれつきの素質に左右される性質も持っています。
マネージャーは、自我の力をベースに育ち、現実とうまく付き合うこと、本能衝動をコントロールすること、考えること、
自分を守ることなどを身につけていきます。
うまく折り合いをつけて、その人らしさがあらわれていることを自我同一性と呼びます。いわゆる、アイデンティティの確立というものです。
次のコラムでは、自分を守ること=防衛について、より詳しくお話ししたいと思います。
(参考文献:小谷英文「ガイダンスとカウンセリング」)
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