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適度な匙加減を体得する(2)

前回お話ししたことは、学問的な知見とどのようにつながってくるのでしょうか? 今回は匙加減の体得と学習心理学との関連を考えてみましょう。心理学を学んだ人には基礎知識的な内容ですが、一般の方には少し難しいかもしれません。興味のある方は他の本などもご参照ください。


たとえば、カウンセリングをしていくうちにうつ状態がかなり回復して、気持ちの落ち着きや意欲が出てきたクライエントの方が、テニスなどを徐々に開始する場面を想定してみましょう。


スポーツ・車や自転車の運転・楽器演奏・もの作り・調理など、何らかの運動技能を体得していく過程は、専門的には「技能学習」と呼ばれます。人間が何かの技能を習得していく過程を細かく見ていくと、動作の誤りや歪みを修正し、力の入れ具合(匙加減)を適度なものにしていく部分があり、それは学習の重要な一側面になっていると思います。それは自覚的に行われることもあれば、無意識的に調整されていく場合もあります。


技能学習では、結果のフィードバックなどとともに、行動を繰り返す「練習」がとくに重要とされます。教育心理学を教えたソーンダイクは、繰り返しの効果を「刺激と反応の結合が強められる」と表現しています。逆に、繰り返しをやめると「結合が弱まる」というわけです。現代では、実地練習だけではなく、行動をイメージすることも学習に貢献すると言われています。


スキナーという人は「強化」という概念で有名な人であり、試行回数よりも強化回数を重視しました。ゲシュタルト心理学のケーラーは「洞察」という、一気に解決に至る過程の研究で知られています。ゲシュタルト学派でも、単なる反復、すなわち無意味な繰り返しは有効ではなく、強化回数が重要という考え方です。マーという人は、技能学習のなかで間違いやぎごちなさが少しずつ修正されていくのは、脳にそれが記憶されていくためだと言いました。


たとえば、うつ状態が回復してきてテニスを開始した人の場合、集中力や意欲、体力が上がってくると、身体的運動の充実感や周囲への貢献感がだんだん心地良いものになってきます。練習により、ストロークの力加減も安定してくるでしょう。ある程度行動できるようになるのは嬉しいものですが、急がず少しずつやりましょう。もし、周りから感謝されたり、必要とされているメッセージを得られたりすると、さらにモチベーションが高まっていきます。何か新しいことができるようになると、自信が湧いてくるものです。


参考文献:現代心理学辞典、世界大百科事典

                        キジバト(葛西臨海公園)

 

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